Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


「捕まえろ! 境界を穢す者を!」



大柄な髭を生やした男────いや、熊のような毛皮に覆われた怪人が、ニヤリと裂けた口で笑う。

丸太のような腕には、血管が黒く浮き上がり、彼とは比べ物にならない程強そうに見えた。

ギチギチと、包囲網が縮まっていく。

逃げ場はない。
とてつもない絶望感が、足元から這い上がってくる。


「お前はそこにいろ」


蒼の背中が、小さく、でも酷く頼もしく見えた。


「お前、人間を庇う気か。番人のくせに」


髭の怪人が、蒼を挑発するように笑う。



ヒュッ────



空気が、悲鳴を上げた。
目の前に居たはずの蒼が、一瞬にして視界から消える。




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