恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「調子はどうですか」
祖母に向けられた声は、医師としてのもの。
落ち着いていて、無駄がない。
「ええ、おかげさまで」
祖母が穏やかに答える。
そのやり取りを、幸子は少しだけ距離を置いたまま見ていた。
仕事中の松澤。
それは、自分が知っているもう一つの顔。
そして、自分だけが知ってしまった、もう一つの顔。
その両方が、今同じ場所にある。
それが、不思議で、落ち着かなかった。
松澤は一通りの確認を終えると、カルテに視線を落としながら言った。
「経過は良好です。問題なければ、近いうちに内科へ引き継ぎます」
「まあ……そうなの」
祖母が少しだけ残念そうに笑う。
「先生に会えなくなるのは、寂しいわね」
その言葉に、幸子の心が小さく揺れた。
松澤は顔を上げる。
そして、穏やかに答えた。
「また、会えますよ」
その言葉は、祖母に向けたもののはずなのに、どこか違う意味を含んでいるように感じてしまう。
思わず、顔が熱くなる。
視線を落とす。
けれど、さっきとは違う。
逃げるためではなく、ただ少しだけ気持ちを整えるために。
松澤はそれ以上何も言わず、軽く会釈をして病室を出ていった。
扉が閉まり、静けさが戻る。
祖母が、ふっと笑った。
「いい先生ね」
「……うん」
小さく頷く。
胸の奥に残っているものは、不安ではなかった。
少しだけくすぐったくて、あたたかいもの。
それを、まだ上手く言葉にできないまま、幸子は静かに息を吐いた。
祖母に向けられた声は、医師としてのもの。
落ち着いていて、無駄がない。
「ええ、おかげさまで」
祖母が穏やかに答える。
そのやり取りを、幸子は少しだけ距離を置いたまま見ていた。
仕事中の松澤。
それは、自分が知っているもう一つの顔。
そして、自分だけが知ってしまった、もう一つの顔。
その両方が、今同じ場所にある。
それが、不思議で、落ち着かなかった。
松澤は一通りの確認を終えると、カルテに視線を落としながら言った。
「経過は良好です。問題なければ、近いうちに内科へ引き継ぎます」
「まあ……そうなの」
祖母が少しだけ残念そうに笑う。
「先生に会えなくなるのは、寂しいわね」
その言葉に、幸子の心が小さく揺れた。
松澤は顔を上げる。
そして、穏やかに答えた。
「また、会えますよ」
その言葉は、祖母に向けたもののはずなのに、どこか違う意味を含んでいるように感じてしまう。
思わず、顔が熱くなる。
視線を落とす。
けれど、さっきとは違う。
逃げるためではなく、ただ少しだけ気持ちを整えるために。
松澤はそれ以上何も言わず、軽く会釈をして病室を出ていった。
扉が閉まり、静けさが戻る。
祖母が、ふっと笑った。
「いい先生ね」
「……うん」
小さく頷く。
胸の奥に残っているものは、不安ではなかった。
少しだけくすぐったくて、あたたかいもの。
それを、まだ上手く言葉にできないまま、幸子は静かに息を吐いた。