恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
雨は相変わらず激しかった。
けれど先ほどまでとは違う。幸子の腕の中には守るべき小さな命があって、隣には無言のまま歩調を合わせてくれる人がいる。

古い商店街のアーケード跡を抜け、細い路地を曲がり、さらに住宅街へ入る。
途中、吹き込む雨から子猫を守るように、松澤が何度も自然に身体を寄せてくる。そのたびに幸子は肩先に彼の体温を感じて、どきりとした。

「濡れてないか」

「猫は大丈夫です」

「猫じゃない。君のほうだ」

思わぬ言葉に足がもつれそうになる。

「わ、私は平気です」

「そうは見えない」

低い声が近い。
雨音のせいで、余計に鼓膜へ直接落ちてくるみたいだった。

幸子は俯いて歩く。
こんなふうに気遣われることに、慣れていない。しかも相手は、いつも遠くから見るだけだった松澤だ。
< 11 / 53 >

この作品をシェア

pagetop