恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
時間が、止まった気がした。
何を言われたのか、理解するのに一瞬かかった。

けれど次の瞬間、幸子の胸の奥が強く揺れる。

嬉しい。
その気持ちは、はっきりとある。

けれど、それと同じくらい怖かった。

視線を落とすと、手元がわずかに震えていた。
そこへ、松澤の低い声が、やわらかく落ちる。

「……すぐに返事をくれとは言わない。ただ、俺の気持ちは知っておいてほしい」

逃げ道を残す言い方だった。
無理に引き寄せない。
けれど、離しもしない。

その距離に、胸が締めつけられる。

「……嬉しいです」

ようやく、言葉がこぼれる。

本心だった。
けれど、それだけでは足りなかった。

「でも……」

ここで曖昧にしたくなかった。

「私、まだ大学の奨学金の返済が残ってて……。それに、おばあちゃんも、まだ体調が……」

背負っているもの。
それを、ちゃんと伝えなければならないと思った。

「奨学金は、俺が引き受ける。気が引けるなら、共働きでもいい。お祖母さんのことも含めて、考えてる」

迷いのない松澤の言葉に胸の奥が、強く揺れる。
全部、受け止める。
その覚悟が、はっきりと伝わった。

嬉しい。
怖い。
その両方が、同時にあふれてくる。

幸子は、ゆっくりと視線を落とした。
すぐに答えは出せない。

けれど、逃げることだけはしたくなかった。

「……少し、考えさせてください」

その言葉に、松澤は深く頷いた。

「わかった」

言葉が途切れる。

部屋の空気が、わずかに揺れた気がした。
その中で幸子は、自分の人生と、初めて真正面から向き合っていた。

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