恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
約束の時間より少し早く、幸子はホテルのラウンジに足を踏み入れた。
大きな窓から差し込む黄昏が、落ち着いた色合いのソファやテーブルをやわらかく照らし、静かに流れるピアノの旋律が空間全体を包み込んでいる。
さりげなく交わされる会話の調子までがどこか洗練されていて、ここが自分の知っている日常とは少し違う場所なのだと、改めて実感させられた。

それでも足は止まらなかった。
松澤と話すと決めたのは自分で、逃げないと決めたその延長に、この場所があるのだとわかっていたからだ。

案内された席に腰を下ろすと、自然と背筋が伸びる。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
怖さが消えたわけではない。
ただ、その先を見ようとしている自分がいると、はっきり感じられていた。

やがて、こちらへ向かってくる足音に気づく。
顔を上げると、松澤が迷いのない足取りで歩いてくるところだった。

「待たせたか?」

落ち着いた声が届く。

「いえ……少し早く来てました」

「来てくれて嬉しいよ」

そう答えて、松澤は向かいの席に腰を下ろす。
テーブルを挟んで向かい合うその距離が、以前とは違う意味を持っていることを、互いに感じていた。

先に口を開いたのは、幸子だった。

「……私、ちゃんと考えました」
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