恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
声は落ち着いていた。
けれど、胸の奥に隠れている弱い自分が顔を出す。

「正直に言うと……私みたいなのが、先生に釣り合うのかって……怖いです」

言葉が少しだけ途切れたが、それでも、逃げずに言えた。

松澤はすぐには言葉を返さず、ほんの一瞬、考えるように視線を落とした。

「……倉田」

そして、顔を上げ、幸子を真っ直ぐ見据える。

「他人からの評価なんて関係ない。男女がつき合うのに、必要なのは、お互いを思いやる気持ちだ」

その言葉が、まっすぐに落ちてくる。
そう、他人の目を気にして、幸せを手放してはならない。
幸子は、なけなしの勇気を奮い立たせた。

「……足りないものが多い私です。でも……それでも、先生と一緒にいたいです」

言い終えた瞬間、胸の奥にあったものが、すっとほどけた。
迷いながらではなく、自分で選んだ言葉だと、はっきりわかる。

松澤はしばらく幸子を見つめてから、ゆっくりと息を吐いた。

「ありがとう。ちゃんと届いた」

その言葉は、飾りがなかった。
だからこそ、まっすぐだった。

「最初から、うまくやろうとしなくていい。一緒にいる中で、考えればいい」

幸子は、小さく頷いた。
それだけで十分だった。

スタッフが運んできた紅茶から、やわらかな香りが立ちのぼる。
その香りに包まれながら、幸子はふっと息を吐いた。
さっきまで胸の奥にあった張りつめたものが、少しずつほどけていくのがわかる。

完全に不安が消えたわけではない。それでも、その不安と一緒に歩いていける相手がいるという事実が、何よりも大きかった。

視線を上げると、松澤が静かにこちらを見ている。
その距離が、さっきより少しだけ近くなった気がした。
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