恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
昭和の香りがする古い家。
柱の木目はところどころ色が変わり、流し台も今どきのものに比べればずいぶん小さい。それでも祖母が毎日磨いていたおかげで、台所はきれいに整っていた。

「子猫、ここに置きますね」

幸子はテーブルの上にバスタオルを広げ、その上にそっと子猫を寝かせた。
小さな身体はやっぱり冷え切っている。
ぐったりした様子に、何とか助けたいと気持ちが急ぐ。
松澤はすぐ隣に立ち、子猫を覗き込んだ。

「タオル、もう一枚あるか」

「はい、すぐ持ってきます」

幸子は急いで棚からタオルを取り出した。
戻ると、松澤は腕まくりをして子猫の身体を優しく支えている。

その指先は、驚くほど慎重だった。

手術器具を扱う外科医の手。
きっと普段は、人の身体を切り開き、命を救うために迷いなく動く手だ。

なのに今は、壊れ物を扱うみたいに小さな身体を包んでいる。

「タオル、ここに置きます」

「ありがとう」

松澤は受け取ったタオルで、子猫の身体をそっと拭き始めた。
幸子も反対側から濡れた毛を押さえるようにして水分を吸い取っていく。

気づいたときには、二人の距離は驚くほど近くなっていた。
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