恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
落ち着いた女性の声が、背後からかかった。
瞬間、松澤の表情が、ほんのわずかに変わる。

「……母さん、それに父さんまで」

幸子が振り返ると、そこには上品な雰囲気を纏った男女が立っていた。
年齢は五十代ほどだろうか。どちらも隙のない身なりで、その立ち姿だけで場の空気がわずかに引き締まる。

大学教授の父・松澤昌弘と、有名な皮膚科医の母・松澤智代だった。

同僚が噂していた言葉が、そのまま現実として目の前に立っていた。

「珍しいわね、こんなところで会うなんて」

智代は、柔らかな笑みを浮かべた。けれど、その視線は自然な流れで幸子へと移る。

幸子は、背筋を伸ばした。
見られている。
ただそれだけの事実が、はっきりと伝わってくる。

そのとき、松澤が静かに口を開いた。

「紹介する。結婚を前提に付き合っている倉田幸子さんだ」

一瞬、時間が止まったように感じた。
思考が追いつく前に、その言葉だけが胸に落ちてくる。

──結婚を前提に

その重みを理解するよりも先に、幸子は立ち上がっていた。

「は、初めまして……倉田幸子と申します」
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