恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
手を繋いだまま、しばらく無言で歩く。
夜の空気はひんやりとしているのに、指先から伝わる温もりで心があたたかい。

松澤が小さく息を吐く。

「……さっきは、悪かった」

「え……?」

「母のことだ」

声が沈んでいる。

「ああいう人だから、距離の取り方が少し極端でな」

淡々とした口調だった。
けれど、そこにわずかな苦さが混じっているのを感じる。

「昔からあんな感じで……あまり家にもいなかったし、離れている方が、いい関係でいられる」

さらりと言われた一言。
けれど、その中にある距離の深さを、幸子は自然と察してしまう。
今、彼がホテルで暮らしている理由とも、繋がる気がした。

「……私の方こそ、ちゃんと答えられなくて……すみません」

幸子の本音だった。
あの場で、自分がどう見られているのかは、わかっていたから。

松澤は一瞬だけ視線を落とし、それから小さく息を吐く。

「さっきも言ったけど、よくやったよ。だから、大丈夫だ」

続いたその一言に、胸が大きく揺れる。
握られた手に、わずかに力がこもる。

「倉田は、そのままで十分魅力的なんだから」

思いがけない言葉に、幸子の頬があつくなる。
そして、返事の代わりに指先に伝わる温もりを、ぎゅっと握り返す。

それだけで、十分だった。

「送るよ」

低い声が、すぐ隣で落ちる。

「……はい」

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