恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
家の前に着いたのに、手を離すタイミングがわからない。
そんなことを考えている自分に、ほんの少し驚く。

けれど、松澤のほうから、そっと指をほどいた。
その動きがあまりにも自然で。
そのぶん、胸の奥が少しだけ寂しくなる。

「じゃあ」

松澤がそう言いかけた、そのときだった。
玄関の引き戸が、すっと開いた。

「あら」

顔を出したのは祖母だった。
夜風に当たろうとでもしていたのか、羽織を肩にかけたまま、こちらを見ている。
そして、幸子の隣に立つ松澤の姿を認めた瞬間、目を細めた。

「こんばんは」

松澤が、先に頭を下げる。
その所作は、病院で見せるものとは少し違って、どこかやわらかかった。

「こんばんは。いつもお世話になってます」

祖母も、ゆっくりと頭を下げる。
そのやりとりの中で、空気がほんの少しだけ変わる。
仕事としての関係ではなく、もっと個人的なものへと。

「今日は……送っていただいて」

幸子が言いかけると、

「いえ、こちらこそ、遅くまでお引止めしてしまって」

松澤が、静かに言葉を重ねる。

祖母は、二人の様子を交互に見ていた。

ほんの一瞬。
それだけで、何かを理解したように。

「あらあら……」

小さく笑う。
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