恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
玄関の戸を閉めたあとも、しばらくその場から動けなかった。
さっきまでそこにあった気配が、まだ残っているような気がして……。

指先に、ほんのかすかな温もりが残っている。
それを確かめるように、そっと手を握る。

「……ふふ」

小さく、笑みがこぼれた。
こんなふうに、誰かとの時間を大切に思う自分がいることが、少しだけ不思議だった。

「先生、素敵な方よね」

背後から、祖母の声がした。
振り返ると、いつもの穏やかな表情でこちらを見ている。

「おばあちゃん……」

「さっちゃんのこと、大事にしてる顔してたよ」

さらりと言われて、思わず言葉に詰まる。

「……そんなの、わかるの?」

「わかるわよ」

くすりと笑う。

「長く生きてるとね、そういうのは見えるの」

からかうような響きだったが、その奥には確かな実感があった。

幸子は、少しだけ視線を落とす。

胸の奥にあるものが、言葉になりそうで、うまくまとまらない。

「……うん」

それでも、小さく頷いた。

祖母は満足そうに微笑むと、やさしく促した。

「ほら、冷えるから上がりなさい」

その声に背中を押されるように、幸子は家の中へと足を踏み入れる。

 
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