恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
真田とは、松澤と一緒に行ったレストランで、初めて会って、少し言葉を交わしただけ。
話があると言われても、意味が分からず戸惑う幸子だった。

『ああ。折り入って話があるそうだ』

その一言で、空気が変わる。
軽い話ではない。

幸子は、ゆっくりと息を吸った。

「……どうして、でしょう」

小さくこぼれる本音。
自分でも気づかないうちに、指先に力がこもっていた。

電話の向こうで、わずかな沈黙。
そして、いつもより低い声がした。

『俺も、気になっている。……だから、一人で行かせるつもりはない』

「先生、お忙しいんじゃ……」

『大丈夫だ。一緒に行く』

迷いのない声音だった。


幸子は、少しだけ目を閉じる。
不安が消えたわけではない。
けれど、一人ではない。

その事実が、はっきりと支えになる。

「……お願いします」

ずっと、気になっていた。
あの視線の意味を。
なぜ名前に反応したのかを。
知らないままでいる方が、きっと落ち着かない。

『……わかった。場所と時間は、俺が調整する』

「はい」

通話が終わる。
画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

胸の奥で、何かが静かに揺れている。
それが何なのかは、まだはっきりしない。

けれど、目を逸らすつもりはなかった。
< 142 / 223 >

この作品をシェア

pagetop