恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「危ない」

松澤の声が耳の横で響く。
気づけば、幸子は松澤の胸に抱き留められていた。
ほんの一瞬のことなのに、心臓が急に速くなる。

「す、すみません……」

「床が、濡れて滑ったんだな」

「はい……」

幸子は慌てて立上り、顔を伏せたまま頷いた。
自分の鼓動が、やけに大きく聞こえる。

子猫を助けることで頭がいっぱいだったはずなのに、急に別の意味で落ち着かなくなる。

「拭く物持ってきます」

幸子は急いで洗面所へ向かった。
鏡に映った自分の顔を見て、思わず足を止める。
頬が、少し赤い。
何を意識しているんだろう、と自分で呆れてしまう。

相手は松澤先生だ。
自分とは住む世界が違う人。
ただ、たまたま雨宿りをして、たまたま子猫を拾って、たまたま家に来ただけ。
それだけのこと。

そう思っているのに、胸が妙にそわそわする。
幸子は首を振って、雑巾と湯たんぽを持って台所へ戻った。
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