恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子は首を振り、雑巾と湯たんぽを持って台所へ戻った。
すると、松澤は子猫を大切そうに胸元で抱え、ドライヤーをあてていた。

その光景に、幸子は思わず足を止める。

冷たい人だと思っていた。

近寄りがたい、怖い人だと。
病院での松澤は、いつもそういう空気を纏っていたから。

でも今、目の前にいる人は、雨に濡れた子猫を必死に温めている。

幸子は胸の奥が、ふっと柔らかくなるのを感じた。

「先生」

「ん?」

「優しいんですね」

ぽろりと言葉が落ちた。

言ったあとで、しまったと思う。
こんなの、余計なことかもしれない。

けれど松澤は、ほんの一瞬だけ目を細めた。

「別に優しくない。ただ、助かる命なら助けるだけだ」

その言葉は、医者としての矜持みたいに聞こえた。

幸子は小さく頷く。

「それでも、優しいと思います」

松澤は何も言わなかった。
ただ、子猫の頭をそっと撫でる。

台所には、ドライヤーの小さな風の音と、子猫を救おうとする二人の呼吸だけが流れていた。
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