恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
祖母は、そんな幸子をしばらく見つめていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。

「迷っていいのよ。すぐに答えなんて、出さなくていい。これは、さっちゃんの人生の話なんだから。誰かのためじゃなくて、自分のために決めなさい」

やわらかいのに、揺るがない声だった。
その一言が、まっすぐに胸に届く。
幸子の目に、じわりと熱が滲む。

祖母は、ほんの少しだけ身を乗り出した。

「ただね」

声の深さが、少しだけ変わる。

「もし、その人が本当にお父さんだったとしても、……さっちゃんを育てたのは、あの子よ。
千賀子が、一人で全部背負って、それでも笑って、あんたを大事に育てた」

祖母の声が、わずかに揺れる。

「だからね。……さっちゃんは、千賀子の子であることに、何一つ引け目を感じる必要はないのよ」

その瞬間。
胸の奥で張りつめていたものが、静かにほどけた。

「……っ」

息が詰まる。
視界が滲む。
こらえようとしても、止まらなかった。

「……おばあちゃん……」

声が震える。
祖母は、ただ静かに頷いた。

「これからどうするかは……さっちゃんが決めなさい。自分が幸せになるためによく考えてね」

そのときだった。
松澤の手がそっと重なる。

それだけで、崩れそうだったものが、踏みとどまる。
幸子は、ゆっくりと顔を上げた。
涙で滲む視界の中でも、はっきりとわかる。

自分は一人ではない。
支えてくれる人がいる。
だから、逃げずに、決めようと思えた。
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