恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
その夜、松澤が帰ったあとも、幸子は答えを出せずにいた。
祖母の言葉を胸に抱えたまま、自分の部屋へと戻り、窓の外に目を向ける。

夜の街には、誰かが暮らしている明かりが灯っていた。
あの中に、それぞれの人生があるように、自分の知らない過去も、どこかに確かに存在している。

ベッドに腰を下ろし、膝の上でそっと手を重ねた。

『自分のために決めなさい』

祖母の声が、静かによみがえる。

母のこと。
真田のこと。
そして、隣で支えてくれる松澤の存在。

いくつもの想いが重なり合い、簡単には整理がつかない。
けれど、わからないまま立ち止まり続けることだけは、違う気がしていた。

ふと、机の上に置いたスマートフォンに視線が向く。
画面は暗いままなのに、その向こうに繋がっている人がいることを思い出す。

幸子はゆっくりと手を伸ばし、ためらいを押し込むように通話ボタンを押した。

数コールのあと、低く落ち着いた声が耳に届く。

『……どうした』

「……今、大丈夫ですか」

『ああ』

短い返事だったが、それだけで呼吸が整う。

「私……考えました」

言葉を選びながら、ゆっくりと続ける。

「……DNA鑑定、受けてみようと思います」

言葉にした瞬間、胸の奥で揺れていたものが、静かに形を持った気がした。

電話の向こうで、わずかに息を吐く気配がする。

『……いいのか?』

その問いには、確認と、わずかな心配が含まれている。

「はい。知らないままでいる方が、きっと怖いから」

その一言に、今の自分の気持ちをすべて込めた。
母が何を選んだのか。
自分がどこから来たのか。

逃げずに受け止めたい。

『……わかった』

短く返ってくる声の奥に、はっきりとした覚悟があった。

『何があっても俺が支えるから、何も心配しなくていい』

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