恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
言葉が、出ない。
ただ、その一言が、まっすぐに胸の奥へ落ちてくる。

「……あの」

ようやく、声を絞り出す。

「……真田さんって、どんな方なんですか」

ほんの短い沈黙のあと、松澤は答えた。

『厳しい人だ。医者としても、人としてもな』

淡々とした声。
けれど、すぐに続く。

『でも……信頼できる。嘘はつかない』

ほんの少しだけ間が空く。

『真田先生は……、ずっと仕事ばかりしてた』

「……え?」

思わず、小さく聞き返す。

『研究と診療中心の生活で、浮いた噂も無く、独身を貫いていた』

淡々とした口調。
けれど、その奥にどこか複雑な響きが混じる。

『理由は聞いたことがない。でも……忘れられない人がいたんじゃないかとは、思ったことがある』

「……そうなんですね」

胸の奥が、わずかにざわつく。
母のことを思っていたのかもしれない。

そう考えた瞬間、真田という存在が、急に輪郭を持ち始める。

『無理はするな。受け止めきれなくなったら、逃げていい。そのときは、俺がいる』

その言葉に、思わず息が詰まる。

「……先生……ずるいです」

小さく笑う。

「そんなふうに言われたら……頑張るしかなくなるじゃないですか」

『頑張らなくていい。俺は、何があっても受け止めるつもりだ』

胸の奥の緊張が、ふっとほどける。

「……ありがとうございます」

今度は、きちんとした声で言えた。

『ああ。ちゃんと休め』

「……はい」

『おやすみ』

「……おやすみなさい」

通話が切れ、静けさが戻る。
けれど、さっきまでの不安な気持ちは消え去っていた。
ベッドに横になり、天井を見上げる。

ふと、頬がゆるむ。

「……先生、ありがとう」

小さくつぶやく。

その言葉には、やわらかな熱が混じっていた。

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