恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
部屋に戻ってからもしばらくのあいだ、幸子は電気もつけないまま、静かな空間の中に立ち尽くしていた。

外のざわめきはすでに遠く、家の中にはいつもの落ち着いた空気が戻っている。
それなのに、胸の奥だけがまだ、わずかに波立っている。

昼間の短いやり取りを思い出しただけで、胸の奥が静かに熱を帯びる。

ふと視線を落とすと、足元にやわらかな気配が寄ってきた。

「……ミルク」

小さな体が、いつものようにすり寄ってくる。
幸子は自然としゃがみ込み、その背中にそっと手を伸ばした。
指先に伝わるやわらかな毛並みと、ほんのりとした体温。
それに触れているうちに、張りつめていた心が、少しずつほどけていくのがわかる。

「ねえ……ちょっとだけ、声、聞いてもいいかな」

子猫が喉を鳴らす。
その音に背中を押されるように、幸子はスマートフォンを手に取った。
数コールのあと、すぐに繋がる。

『……どうした』

低く落ち着いた声が、耳に届く。

それだけで、不思議と呼吸が整う。

「……今、大丈夫ですか」

『ああ。お前からの電話なら、問題ない』

何気ない口調。
けれど、その言葉の近さに、思わず言葉が止まる。
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