恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「……少しだけ、声が聞きたくて」

気づけば、そんな言葉がこぼれていた。
電話の向こうで、わずかに息を吐く気配がする。

『そうか……俺も、かけるつもりだった』

「え……?」

思わず聞き返すと、少しだけ間を置いて続く。

『昼間、ほとんど話せなかったからな。気になっていた』

その一言に、胸の奥が静かに揺れる。

言葉にされると、こんなにもはっきりと伝わってしまうのかと思う。
しばらく、互いに言葉を探すような沈黙が流れる。
けれど、それは気まずいものではなく、むしろどこか心地よい。
その時、子猫のミルクが、足元に頭をこすりつけながら甘えるように見上げてくる。

「……ちょっと、待ってくださいね」

片手で抱き上げ、膝の上へ乗せた。

『……ミルクか?』

「はい。少し大きくなりました」

『そうか』

少しだけ、声がやわらぐ。

『ずいぶん懐たな』

「はい……こうしてると、落ち着くんです」

そう言いながら、ふと気づく。
今、自分はとても自然に話している。

『……俺もだ』

「え……?」

『お前の声を聞いてると、落ち着く』

一瞬、言葉が出なくなる。
心臓が、静かに、けれど確かに強く打つ。

「……そんなこと、言われたら」

かすかに笑う。

「余計に意識します」

『意識しろ』

その一言に、思わず息が止まる。

『そのために言ってる』

(……ほんとに、ずるい)
< 167 / 223 >

この作品をシェア

pagetop