恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
約束の日、待ち合わせの場所に向かう足取りは、いつもより少しだけゆっくりだった。
急いでいるわけではないのに、胸の奥が落ち着かない。
理由は、わかっている。
“会う”というだけで、こんなにも意識してしまう相手がいることに、まだ慣れていないのだ。

待ち合わせ場所に着くと、すでに松澤はそこにいた。
白いカットソーにスイングトップのジャケットのシンプルな私服姿。
それだけなのに、どこか印象が違う。

「……お待たせしました」

声をかけると、松澤が静かに振り返る。
その視線がまっすぐに向けられた瞬間、胸の奥がわずかに揺れた。

「いや。俺も今来たところだ」

落ち着いた声。
けれど、その奥にあるやわらかさは、もう隠しきれていない。

並んで歩き出す。
特別なことをするわけでもない。
ただ同じ方向へ進んでいるだけなのに、不思議と距離が近く感じられる。
隣にいることが、少しずつ自然になってきている。

案内された席は、窓際だった。
夜の街がやわらかく広がる、高層階のレストラン。
落ち着いた照明と静かな音楽が、どこか肩の力を抜かせてくれる空間だった。

席に腰を下ろしたとき、幸子は小さく息をつく。

「……こういうところ、あまり来たことがなくて」

少しだけ困ったように笑う。
松澤は、その表情を見て、わずかに視線をやわらげた。

「知ってる。だから、気を張らなくていい店にした」

「……え?」

「料理も重すぎない。落ち着いて話せるところを選んだだけだ」

さらりと言われたその言葉に、胸の奥が少しだけほどける。

(……ちゃんと見てくれてる)

さっきまで感じていた緊張が、ゆっくりと和らいでいく。

「……ありがとうございます」

自然と笑顔がこぼれた。
松澤は目を細め、頷く。

「ん……そういう顔して笑うなら、連れてきた甲斐がある」
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