恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
智代は、静かに頷いた。

「……昔からね。克樹は、ああいう場面になると周りが見えなくなるの」

思いがけない言葉に、幸子は顔を上げる。
智代は視線を外さず、続けた。

「子どもの頃も、怪我をした子がいると放っておけなくて……自分もケガしていたのに、相手の子を一生懸命に手当てをしていたの」

淡々とした口調。
思い出話のようでいて、どこか距離のある言い方。

「……そうなんですか」

思わず返すと、母はわずかに肩をすくめた。

「ええ。面倒な子でしょう?」

そう言いながら、ほんの一瞬だけ、視線がやわらぐ。
その変化はほんのわずかだった。
けれど――

(……違う)

幸子は気づく。

それは呆れている目ではない。
誇らしさを隠している目だと。

言葉にはしない。
けれど、ずっと見てきたからこそ滲むもの。
その視線の奥にあるものに触れた瞬間、胸の奥が静かに揺れた。

(先生は……ちゃんと、愛されてきたんだ。だから、あんなふうに迷わず人を助けられるんだ)

そう思ったとき、不思議と安心した。

< 183 / 223 >

この作品をシェア

pagetop