恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
夜もすっかり更けた頃、自宅に戻った幸子は、ようやく一息ついた。

「さっちゃん、お茶入れたわよ」

「はーい。ミルクおいで」

子猫を膝の上に抱えようとしたそのとき、不意に玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に、と子猫をゲージに戻し、戸惑いながら扉を開た。

「あ……」

そこに立っていたのは、松澤だった。

昼間と同じスーツのまま、ネクタイだけが少し緩められている。長い一日をそのまま引きずってきたような姿なのに、その視線だけはまっすぐにこちらを捉えて離さない。

「遅くにすまない」

低く落ちる声は、いつもと変わらないはずなのに、どこか張りつめているようにも聞こえた。

「……どうされたんですか?」

自然とそう問いかけると、松澤は一瞬だけ言葉を探すように視線を伏せ、それからゆっくりと顔を上げる。

「大切な席だったのに、ああいう形になった。……すまなかった」

瞬間、幸子は目を見開く。
驚いたのは、“謝られたこと”ではなく、わざわざそれを伝えに来たという事実だった。

「……大丈夫です。ああいうとき、先生は動く人だって思ってました」

その言葉に、松澤の表情がわずかに動いた。

「……そうか」

短く返しながら、小さく息を吐く。
それは、ようやく力を抜いたような呼吸だった。
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