恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「正直……あの場に置いて行った時点で、怒られても仕方ないと思ってた」

低く落ちた声に、幸子は少しだけ目を丸くする。

「……そんなふうに考えてたんですか?」

「ああ」

短く答える。

「両親への挨拶の最中で……しかも、ああいう終わり方になってしまった。
だから、お前が怒っても当然だと思ってた」

ぽつりと落ちた言葉に、幸子は思わず微笑んだ。

「……怒ってませんよ」

静かに、首を振る。

「それに、先生は、ちゃんと私の元に来てくれました」

その一言は、自分でも思っていた以上に素直な響きを持っていた。
松澤の視線が、わずかに揺れる。

夜の静けさの中で、互いの呼吸だけが、ゆっくりと重なっていく。

やがて、松澤が一歩だけ距離を詰める。

「……幸子」

名前を呼ぶ声が、さっきまでとは違う温度を帯びている。
視線が、外せない。
触れるかどうかの距離で、ほんの一瞬だけ止まる。

「……いいか」

低く、確かめるような声。
幸子は、ほんの少しだけ息を整え、それから静かに頷いた。

その瞬間、手首を軽く引かれる。
気づいたときには、腕の中にいた。
強く抱きしめられるわけではない。

けれど、逃げようと思えば逃げられるはずの距離を、あえて離れないと選ばせるような抱き方だった。
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