恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子は、ほんの少しだけ力を抜き、松澤の胸元に額を預ける。

そのときだった。

「にゃあ」

間の抜けた声が、すぐ足元から聞こえた。

「……え」

二人同時に視線を落とす。
いつの間にか、ゲージの扉が少し開いていて、そこから抜け出した子猫が、二人の足元にちょこんと座っていた。

「ミルク……」

状況をまるで理解していない様子で、きょとんとした目でこちらを見上げている。
次の瞬間、ぴょん、と軽く跳ねて、幸子のスカートに前足をかけた。

「ちょ、ちょっと……」

慌てて抱き上げると、子猫は満足そうに喉を鳴らし、そのまま腕の中で丸くなる。

「……タイミング」

思わず、小さく笑いがこぼれる。
松澤も、わずかに口元を緩めた。

「空気は読まないらしい」

「ですね……」

さっきまでの張りつめた空気が、ふっとほどける。

そのとき。

「……さっちゃん?」

奥から、祖母の声がした。
二人の動きが、一瞬だけ止まる。

襖が、静かに開く。
そこに立っていた祖母は、まず子猫を見て、それからゆっくりと二人へ視線を移した。

「……あら」

小さく、声が落ちる。
驚くでもなく、取り乱すでもなく。
ただ、すべてを見抜いた人の声音だった。

幸子は、言葉を失ったまま固まる。

(どうしよう……)
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