恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
何をどう説明すればいいのか、頭の中が真っ白になる。
けれど、祖母はそんな様子を見て、ふっとやわらかく笑った。

「ミルク、……いいところで来ちゃったのね」

その一言に、幸子の顔がかぁっと熱くなる。

「おばあちゃん!」

声をあげると、祖母はゆっくりと頷いた。
それから、松澤へと視線を向ける。

「さっちゃんから聞きました。今日は……大変だったそうですね」

丁寧な言葉。
けれどその奥にある意味は、さっきまでとは少し違っていた。
松澤も、わずかに姿勢を正す。

「いえ……こちらこそ、幸子さんにご迷惑を」

祖母は、ほんのわずかに目を細めた。

「さっちゃんは、いい時間を過ごせたようですよ」

それだけ言って、くるりと背を向ける。

「さっちゃん。お茶、まだ温かいから。冷めないうちにどうぞ」

何事もなかったかのように、そう言い残す。
けれど、襖を閉める直前、ほんの少しだけ振り返った。
その目は、やさしく、そしてどこか楽しそうだった。

「……ほどほどにね」

小さく、そう付け加えて。
襖が閉まる。

思わず、二人は顔を見合わせた。

「……ばれてますよね」

小さな声で呟く。
松澤は、少しだけ間を置いてから答えた。

「そうだな」

ふふっと笑みがこぼれる。

腕の中の子猫が、何も知らないまま小さく喉を鳴らした。
さっきまでの緊張も、不安も、全部まとめてやわらかくほどけていく。

< 188 / 223 >

この作品をシェア

pagetop