恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
結婚式当日。
控室の窓の外には、柔らかな陽射しが広がっている。
鏡の前に座った幸子は、ゆっくりと息を吐いた。
白いドレスの裾が、足元へ静かに広がっている。
ヘアメイクを終えた自分の姿は、どこかまだ現実感がなかった。
「……綺麗よ。さっちゃん」
後ろから、小さな声が聞こえる。
振り返ると、祖母が少しだけ目を潤ませながら立っていた。
「おばあちゃん」
「千賀子に、よく似てる」
その一言に、胸の奥が静かに揺れる。
母はもういない。
けれど今日、自分はちゃんと繋がっているのだと思えた。
祖母がゆっくり近づき、幸子の頬へそっと触れる。
その手は、少しだけ震えていた。
「幸せになりなさい」
その言葉には、これまでの時間が全部込められている気がした。
幸子は、小さく頷く。
「……うん」
声が少し震えた。
長いベールが、静かに揺れる。
鏡の前に座る幸子を見ながら、智代がそっと息をつく。
「……本当に綺麗」
その声は、柔らかかった。
祖母が嬉しそうに目を細める。
「ありがとうございます。今日は、朝から智代さんにも色々手伝っていただいて」
「大したことじゃないわ」
智代はそう言いながら、幸子のベールをそっと整える。
その手つきは驚くほど丁寧だった。
「でも……娘が出来るって、案外いいものね」
そう言って、智代は嬉しそうに目を細める。
その瞬間、幸子は思わず鏡越しに智代を見た。
智代は少しだけ照れたように視線を逸らし、ぽろりと言った。
「克樹は昔から可愛げがなかったから」
「ふふっ」
そのとき、控室の扉が静かにノックされる。
スタッフが、やわらかく微笑んだ。
「お時間です」
胸が、大きく跳ねる。
幸子はゆっくり立ち上がった。