恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~

松澤は箸を取り、静かに煮物を口に運んだ。
その瞬間、手が止まる。

「……」

自分の手料理なんて、出すんじゃなかったと、幸子は思わず不安になる。

「すみません、口に合いませんでした?」

松澤はゆっくり首を振った。
そして、もう一口食べる。

「うまい!」

短い一言だった。
けれどその声に、幸子の胸が、ふわっと温かくなる。

「よかった……」

安堵の声がぽろりと漏れる。
そのとき、松澤が顔を上げた。

「倉田」

「はい?」

「ミルクの様子、しばらく見ないといけないな」

「そうですね」

松澤は少し間を置いて言った。

「……また来てもいいか」

幸子は一瞬、言葉を失った。
子猫のための言葉だとわかっている。
それでも、胸の奥が小さく跳ねた。

「……はい」

幸子は小さく頷く。

「ミルクも、きっと安心します」

そう言うと、松澤はほんのわずかに笑った。

その笑顔を見た瞬間、幸子の胸は苦しいほど、高鳴った。
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