恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
翌朝。

いつもと同じ時間に、幸子は外来の受付についていた。

白い蛍光灯に照らされた病院の廊下は、すでに多くの患者で賑わっている。
診察開始の時間が近づくにつれ、受付には次々と人が並び始めていた。

「問診票ありがとうございました。紹介状お預かりします」

幸子は落ち着いた声で言いながら、患者さんから預かった問診票を確認する。

いつもと同じ朝のはずなのに、胸の奥が少しそわそわして落ち着かなかった。
昨夜のことが、まだ夢のように感じていたからだ。

雨の夜に、拾った小さな子猫。
そして、松澤先生。

思い出すと、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。

子猫は、夜の間にずいぶん元気を取り戻していた。
箱の中で、古い毛布に包まりながら、丸くなって眠っている。
実は、心配で一晩中、子猫を眺めていたから、寝不足ぎみで朝になってしまった。
でも、家を出るとき、子猫が顔を上げ「にゃ」と鳴いてくれたから、元気をもらった。

松澤は、昨夜遅くに帰っていった。
玄関で靴を履きながら、優しい瞳で言った。

『また様子を見に来る』

その言葉を思い出すと、幸子の胸は少しだけ温かくなる。

でも――

「倉田さん」

同僚の声で、幸子は我に返った。

「カルテ」

「あ、すみません」

慌ててカルテを差し出す。

そのとき、廊下の奥にみんなの視線が集まる。
職員たちの小さなどよめき。

「松澤先生だ」
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