恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子が反射的に顔を上げると、廊下の向こうから松澤が歩いてきていた。

白衣を纏ったその姿は、冷たいほど整っていて、隙がない。
視線はまっすぐ前を向き、周囲の誰とも目を合わせない。

昨夜とは、まるで別人みたいで、幸子は少し寂しく感じた。

――やっぱり、遠い人なんだよね。

そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。

松澤は受付の前で立ち止まった。

「この患者さんのご家族に連絡お願いします」

「は、はい」

幸子は慌てて、カルテを受け取る。
差し出した自分の指先が少し震えていた。

触れた紙越しに、昨夜の記憶がよぎる。
あの静かな声も、近い距離も――

(……だめ)

すぐに、頭の中で否定する。

松澤の視線が、一瞬、幸子に止まる。
でも、昨夜のような柔らかさは、そこにはなかった。

「よろしく」

それだけ言って、松澤は踵を返し、廊下の向こうへ、白衣の背中が消えていく。
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