恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「ミルク……?」

静かな家の中で、そっと呼びかける。
すると、箱のほうからかすかな声が返ってきた。

「にゃあ」

その小さな鳴き声に、胸の奥の緊張が一気にほどける。

「よかった……」

段ボールの箱の中で、子猫は小さな身体を起こしていた。
まだ頼りない動きではあるけれど、昨日よりもしっかりしている。

「お腹すいたよね」

幸子は急いでご飯の準備を始めた。

今朝、作った鶏肉とご飯の離乳食。
冷蔵庫から出して、少しだけ温めたら小さな皿に入れる。

「はい、どうぞ」

そっと差し出すと、子猫は一度だけ匂いを嗅ぎ、それからゆっくりと口をつけた。
ぺろ、ぺろと、小さな舌で食べ始める。

「食べた!」

思わず、顔がほころぶ。
その様子を見ているだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
全部食べ終わるころには、子猫はうとうとと眠そうだ。

「よく頑張ったね」

そっと頭を撫でると、小さな身体は温かい。
それを確認して、ようやく力が抜ける。

「……よかった」

ぽつりと呟きながら、その場に座り込む。

時計を見ると、休憩時間はもう半分以上過ぎていた。
自分のご飯も、まだだったことに気づく。

台所へ行き、冷蔵庫を開ける。
けれど、ゆっくり料理をしている時間はない。

結局、茶碗にご飯をよそい卵を割り入れ、醤油を少し垂らして、かき混ぜる。

「……いただきます」

一口食べた、そのときだった。

スマートフォンが小さく震える。
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