恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「家でこういうの食事ができるのは、いいものだな」

松澤はそう言いながら、静かに箸を進めた。

食事終わる頃、幸子の手には湯気の立つマグカップが二つあった。

「インスタントですけど……コーヒー、飲みますか?」

松澤は少し驚いた顔をした。

「俺の分?」

「はい」

「そこまで……気を使わなくていいのに」

「でも、もう淹れちゃったので飲んでください」

松澤は湯気がゆらゆらと立ち上るカップを受け取り、一口飲むと少しだけ目を細めた。

「……落ち着くな。こういう時間、久しぶりだ」

松澤はカップを持ったまま、ふと幸子を見た。

「病院じゃ、こんなふうに座る暇もなくて……」

その言葉に、幸子の胸が少しだけ切なくなった。
天才外科医と言われ、羨望の眼差しを向けられていても、休息もままならない程、多忙な日々を送っている。
いつ松澤先生は、安らぎを感じているのだろうか……。

そう考えたとき、胸の奥に、ほんの小さな想いが芽生えていることに、幸子はまだ気づいていなかった。 
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