恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~

電話をもらってから、幸子はどこか落ち着かない気持ちで、何も手につかない。

「あー、もう、早く病院に行こう」

結局、約束の時間より前に、病院についてしまい、そのまま入院棟へ向かう。
祖母の病室の前で立ち止まり、深く息を吸い込む。
ドアノブに手をかけたまま、ほんの一瞬だけ迷うように目を伏せ、それから意を決して扉を開けた。
4人部屋の奥、窓際に置かれたベッドにいる祖母に声を掛けた。

「おばあちゃん」

その声に、祖母がゆっくりと顔を上げ、いつものように柔らかな笑みを浮かべた。

「あら、さっちゃん。来てくれたのね」

その変わらない声音に、張り詰めていた気持ちがわずかに緩む。けれど同時に、その”いつも通り”が、かえって不安を際立たせるようにも感じられた。

「検査の結果が出たって聞いて……大丈夫?」

そう尋ねながらベッドの脇に歩み寄ると、祖母は軽く頷き、上半身を起こした。
だが、その動きは以前よりもわずかに重く、呼吸も浅いように見えて、幸子の胸はじわりと締めつけられる。

「ええ、大丈夫よ。結果もね、ちゃんと聞いたわ」

穏やかな声でそう言うと、祖母は少しだけ視線を遠くへやったあと、再び幸子を見つめた。

「心臓ね、やっぱり手術が必要なんですって」

その言葉は、あまりにも静かに落とされた。
けれど、幸子の中ではその一言が大きく響き、時間の流れが一瞬だけ歪んだように感じられる。
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