恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「……手術?」

ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど頼りなかった。

「そう。でもね、今の医療はすごいんですって。ちゃんと治る可能性も高いって、先生が言ってくださったわ」

祖母は、安心させるように微笑む。
その笑顔はいつもと変わらないはずなのに、どこか無理をしているようにも見えて、幸子の胸はツキンと痛む。

ベッドの脇に腰を下ろし、そっと祖母の手を握る。
その手は思っていたよりも細く、少しだけ冷たくて、握った瞬間に現実の重さがじわじわと伝わってきた。

「……怖くないの?」

思わず口をついて出た問いに、祖母は一瞬だけ目を細め、それからあっさりと頷いた。

「怖いわよ」

その率直な答えに、幸子は言葉を失う。
祖母はそのまま、幸子の手を優しく包み込むように握り返した。

「でもね。それよりも心配なのはね……もしものことがあったとき、さっちゃんが一人になってしまうことなの」

胸の奥が、きゅっと強く締めつけられる。

「そんなこと……」

否定しようとする言葉は、最後まで形にならなかった。

「さっちゃんはね、昔から一人で頑張りすぎるところがあるでしょう?」

祖母は穏やかに笑いながら続ける。

「何でも抱え込んで、誰にも頼らないで。だからね、誰かそばにいてくれる人がいたらいいのにって、ずっと思っていたのよ」

祖母の言葉は、優しくて、あたたかくて……。
それだけに、幸子の胸の奥へ静かに沈んでいった。
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