恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~

そのとき、病室の扉が軽くノックされた。

「失礼します」

顔を上げると、看護師が穏やかな表情で立っていた。

「倉田さんとご家族の方、先生から説明がありますので、ご一緒にこちらへどうぞ」

「あ、はい……」

幸子は祖母の顔を見る。

祖母は小さく頷き、ゆっくりとベッドから足を下ろした。

「大丈夫、歩けるわよ」

「でも……」

「ほら」

そう言って微笑む祖母の腕を、幸子はそっと支えた。
細くなった腕の感触が、手のひらに伝わる。
その頼りなさに胸が締めつけられる。それでも、転ばないように気を配りながら、二人でゆっくりと廊下へ出た。

ナースステーションの横を通り、その奥にある小さな面談室へ案内される。
簡素な机と椅子だけの静かな部屋だった。

「こちらでお待ちください」

看護師が出ていくと、扉が閉まり、部屋の中は一気に静まり返った。
時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。
幸子は祖母を椅子に座らせ、その隣に腰を下ろした。

膝の上で手を重ねると、無意識に指先に力が入る。

――手術。

その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
大丈夫だと言われても、不安が消えるわけではない。

もし、何かあったら。
そのとき、祖母がそっと幸子の手に自分の手を重ねた。

「そんな顔しないの。さっちゃんが不安そうにしてると、おばあちゃんのほうが心配になるでしょう?」

幸子は、はっと顔を上げる。

「……ごめん」
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