恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
松澤はカルテを開き、祖母へと視線を向ける。
そして、心臓の模型を手に説明を始めた。

「検査の結果、心臓の弁に異常が見つかりました。病名は心臓弁膜症。場所はこの部分です」

そう言って、模型の一部を指さした。
病名を聞いても漠然としたものが、先生の説明でリアルになっていく。
入院する前、祖母が苦しそうに胸を押さえていた姿が、幸子の頭の中で重なった。
松澤は説明を続ける。

「弁がきちんと機能していない状態で、血液が逆流を起こしてしまいます。このままでは心臓に負担がかかり続けることになります。現に心臓に肥大がみられ、手術の必要があります」

幸子は息を詰めた。
祖母は静かに頷いている。

「今の状態なら、十分に対応可能です」

それでも、幸子の胸に不安が拡がる。

「……本当に、大丈夫なんでしょうか」

気づけば、そう問いかけていた。
松澤はゆっくりと顔を上げ、まっすぐに幸子を見た。

逃げ場のない視線。
けれど、不思議と安心させる強さがあった。

「俺が執刀する。この手術は俺の専門だ。任せてほしい」

その声には、一切の迷いがなかった。だからこそ、胸の奥に強く響く。

この人なら。
そう思わせるだけの確かな重みがあった。
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