恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
雨はまだ強い。
軒先の狭い空間に、沈黙が落ちる。
けれど不思議と、居心地の悪さはなかった。むしろ、雨音に切り取られたこの場所だけが、街のどことも違う時間の中にあるような気がした。
松澤は濡れた前髪をかき上げ、通りの先を見た。
「この辺に住んでるの?」
「はい。駅の向こうです」
「この雨じゃ帰れないな」
「そうですね……」
まるで雑談のような会話。
病院では聞いたことのない、少しだけ柔らかい声。
幸子は自分の手元を見下ろした。
バッグの持ち手を握る指先に、じんわり汗が滲んでいる。
こんなふうに、勤務時間外に話すことになるなんて。
しかも、松澤先生のほうから話しかけられるなんて。
今日一日の出来事の中で、それだけが、まるで現実感を失って浮いていた。
そのとき、
にゃあ。
と、かすかな声がする。
幸子は顔を上げた。
松澤も同時に眉を寄せる。