恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子は思わず手を引きかけるが、松澤は何事もなかったかのように、子猫をそっと抱き上げた。

「まだ足元が安定してないな」

低い声でそう言いながら、片手で小さな身体を支え、その様子を確かめている。
その仕草は、病院で見る医師のそれとは違い、驚くほどやわらかかった。

「はい……」

幸子は視線を落としたまま、小さく答える。
さきほど触れた指先に、じんわりとした熱が残っているような気がして、落ち着かない。
松澤は子猫を抱いたまま、しばらく様子を見てから静かに言った。

「ちゃんと世話をしてくれているんだな。ありがとう」

その一言に、幸子は思わず首を振る。

「……そんな、ぜんぜんです」

否定の言葉が、少しだけ強く出てしまった。
自分でも気づいていたが、抑えきれなかった。

「私こそ、ミルクが居てくれて良かったと……」

ぽつりと、言葉が続く。
胸の奥にあったものが、またゆっくりとほどけていく。

「おばあちゃんが入院して……家でひとりになって……」

言葉が揺れる。

「寂しかったんです」
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