恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
ほんのわずかな空白。

越えてはいけない線を測るように、そのまま静かに松澤の手が引かれる。

けれど、その一瞬が幸子の胸に強く残る。
まるで、心に触れられたようで心臓が、さらに速くなった。
甘くて痛い感覚が、胸の奥に広がっていく。

そのとき、松澤の携帯電話から着信音が響いた。
病院からの緊急の呼び出しだ。

「病院に戻らないと」

「あ……はい」

どこか名残惜しいと思った自分に、幸子は少し驚く。
玄関まで見送ると、松澤は靴を履きながら振り返った。

「また来る」

当たり前のように言う。
その一言が、胸にやわらかく響く。

「……はい」

今度は迷わず答えられた。
戸が閉まり、足音が遠ざかる。
静かな玄関に一人残される。
けれど、さきほどまでとは違う。

自分は一人きりではないと、どこかで思えている。

幸子はそっと、自分の肩に触れた。
さきほど、届きかけた場所。
そこに熱が残っている気がしたから。

触れそうで、触れなかった距離。
そのわずかな余白が、かえって心を満たしていくのを、幸子は静かに感じていた。
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