恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子はその背中を見送る。
胸の奥が、少しだけ落ち着かない。
今のは、気のせいだろうか。
ただの業務上のやり取りで、それ以上の意味なんて、あるはずがない。
そう思おうとするのに、心がそれを受け入れきれない。
「……ねえ、今の見た?」
背後で、また声がする。
「普通に名前呼んでたよね」
「クラ子にわざわざ、仕事を振った?」
「え、まさか……」
同僚たちの視線を背中に感じながら、幸子は、書類を揃える手を動かし続けていた。
そして、そっと息を吐く。
違う。
そんなこと、あるわけがない。
昨夜の出来事は、特別な状況だっただけだ。
祖母のことがあって、たまたま……。
そう、自分に言い聞かせる。
けれど、胸の奥に残った温もりが、それを否定するように静かに揺れていた。
その日の昼休み、休憩から戻ると、まわりの空気が変わった気がした。
すぐに何事もなかったように視線を逸らされ、どこかよそよそしい。
幸子はいつものように隅の席に座り、午後の仕事を始めた。