恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
松澤の影になって、レジの金額は幸子からは見えなかった。
それでも、なんとなくわかってしまう。
自分が普段使う金額とは、まったく違うということが。

「……すみません」

小さく呟くと、松澤は一瞬だけ視線を向けた。

「なんで謝る」

「でも……全部、先生に……」

「子猫を世話してくれて感謝してる。せめて、これぐらいはさせてくれ」

淡々とした口調なのに、視線だけがほんの少しだけ柔らかい。
すると、店員が穏やかな声で尋ねる。

「お持ち帰りですか?それともお届けしますか?」

「届けてくれ」

松澤は即答した。
店員が配送伝票を差し出すと、それを幸子へ渡す。

「ここに自分の住所書いて」

「え……?」

思わず顔を上げる。

「持って帰れないだろ」

あまりにも当然のように言われて、言葉を失う。

確かに、その通りだった。

この量を一人で持って帰るのは無理だ。
そこまで考えてくれてるのか……と、戸惑う。

配送の手続きはあっという間に終わり、手元に残ったのは猫のおやつが入った小さな紙袋ひとつだけだった。

(どうして、松澤先生は……。こんなふうに、色々してくれるんだろう)

戸惑いと一緒に、ほんのわずかな期待が胸の奥に灯る。
消してしまったほうがいいと、わかっているのに。
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