恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~

並んで歩く。
ただそれだけのことが、こんなにも特別に感じられるなんて思わなかった。

ふと、隣を歩く松澤の横顔を見てしまい、慌てて視線を前に戻す。
気づかれていないだろうか、と一瞬だけ不安になる。

けれど、松澤は何も言わない。
それが、不思議と安心で……。
同時に、ほんのわずかに物足りなさも残ることに気づく。

そのことに、幸子は小さく息を飲んだ。

胸の奥で、何かがゆっくりと変わり始めている。
まだはっきりとは言葉にできないけれど、それでも確かに。
以前ほどよりも少しだけ、世界が違って見えていた。

その変化が、怖くて……それでも、どこか嬉しかった。

そんな感情を持て余したまま、幸子は隣を歩く松澤の背中を少しだけ遅れて追いかける。
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