恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子は何も言わず、ただ席につき、書類を整え始める。
けれど、心の奥に、ゆっくりと何かが沈んでいくのを感じていた。

デート、という言葉が頭に残る。

昨夜の時間を思い返す。
優しく言葉をかけてくれたことも、料理を選んでくれたことも。
すべて、ただの気遣いだったのだろう。

相手が誰であっても、同じように接する人だから。
自分が特別だったわけではない。
そう思えば、すべてに説明がつく。

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

けれど同時に、どこか納得してしまう自分もいた。
松澤先生に似合うのは、きっとその人だ。
理事長の娘で、家柄も釣り合って、周囲からも祝福されるような相手。

そういう人となら、先生と並んでいても、誰も違和感を抱かない。
むしろ、当然だと納得するだろう。

並んで歩いていいのは、自分ではない。
そう考えるほうが、ずっと自然だった。
現実は、ここにある。

そう言い聞かせるように、幸子は視線を手元へと落とす。

そのとき、廊下の奥から足音が近づいてきた。
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