恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「……でも」

それでも、まだどこかで否定しようとする。
自分がそんな立場にいるはずがないと、思ってしまうから。

「相手が……私って……」

言葉が続かない。
信じきれない。

松澤はその様子を、静かに見ていた。
そして、わずかに目を細める。

「なんでそうなる」

低く、落ち着いた声。
責めているわけではない。
ただ、理解できないと言っているだけだった。

「昨日、誰と飯食った」

もう一度、問いが落ちる。
幸子は、答えるしかなかった。

「……先生と」

「誰と歩いた」

「……先生と」

「誰といた」

間が、わずかに長くなる。
それでも、逃げられない。

「……先生と」

その答えを聞いて、松澤は小さく息を吐いた。

「それが答えだ」

すべてがつながる。
否定していたものが、裏返る。
足元が揺れるような感覚。
それでも、目を逸らせなかった。
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