恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「……なんで、私なんですか?」

震える声がこぼれる。
嬉しいのに、信じきれなくて、それでも確かめずにはいられなかった。
松澤はその様子を見て、わずかに眉を寄せると、小さく息を吐いた。

「理由が必要か?必要なら言う」

声が、少しだけやわらぐ。

「お前といると、楽だからだ。無理しなくていいし、黙ってても落ち着く」

飾りのない、本音だった。

特別な理由じゃないはずなのに、それがどうしようもなく特別に感じられた。
幸子は喉の奥が詰まるのを感じながら、ようやく言葉を絞り出す。

「……私で、いいんですか」

小さな問い。
けれど、それがすべてだった。
松澤は一瞬だけ目を細めると、迷いなく答えた。

「だから言ってる」

さらに距離が詰まる。
息がかかるほどに。

「お前がいいって」

その言葉で、最後の迷いがほどけた。
胸の奥にあった不安が、静かに溶けていく。
気づけば涙が一筋、頬を伝っていた。

松澤の手がそっと伸び、その涙を指先でやさしく拭う。
その仕草があまりにも自然で、あたたかくて、幸子はもう何も言えなかった。

ゆっくりと顔が近づく。

逃げようとは思わなかった。

まぶたを閉じる。
それが、答えだった。

次の瞬間、唇がそっと重なる。

確かめるような、やわらかなキスだった。
強引ではないのに、はっきりとした意思が伝わってくる。

すぐ近くで、低い声が落ちた。

「……これで、わかったか」

優しく甘い声に、幸子は小さく頷く。

もう言葉はいらなかった。
胸の奥にあるものが、すべてを伝えていたから。
その夜、二人の関係は、確かな形を持った。
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