恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
祖母の手術の日。
幸子は、朝日が昇る頃に目が覚めてしまった。
窓をあけると茜色に染まり始めた空が広がり、空気は、どこか冷たく澄んでいた。
 
「うん、いい天気」

すると、ゲージの中から「にゃあ」と子猫の声がする。
まるで「おはよう」と言っているようで、幸子は顔をほころばせた。

「おはよう、ミルク」

ゲージの扉をそっと開けると、子猫は待っていたかのように小さな身体を寄せてきた。
両手で抱き上げる。
まだ軽いその重みと、腕の中にすっぽり収まる温もりが、じんわりと伝わってくる。
ふわふわの毛が頬に触れて、くすぐったい。

「……あったかい」

思わず、そう呟いていた。

子猫は満足そうに喉を鳴らし、小さな前足で幸子の服をきゅっと掴む。
その仕草があまりにも無防備で、守るように胸に抱き寄せた。

規則正しく伝わってくる呼吸。
温かな体温。
やわらかな毛並み。

それに触れていると、ざわついていた気持ちが、ほんの少しずつ落ち着きを取り戻していく。
言葉にできない不安が、静かに薄れていくようだった。

子猫の背中を、ゆっくり撫でる。
小さな命が、ここにある。
ただそれだけのことが、不思議なほど心を落ち着かせた。

けれど、胸の奥に残った不安が、かすかに揺れている。

ひとしきり世話を終え、時計を見ると午前9時になろうとしていた。
少し早いけれど、病院に向かうことにした。

「……行ってくるね」

子猫にそっと声をかけると、小さく「にゃあ」と返事が返ってくる。

その声に背中を押されるように、幸子は静かに息を吐いた。
そして、松澤からのメッセージを思い起こすと、胸の中の不安は、両手で包めるくらいには小さくなっていた。

 
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