思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
理由も分からないまま。

ただ、この腕の中が――ひどく、懐かしい。

「……どうして」

小さく漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。

知らないはずなのに。

忘れているはずなのに。

どうして、この人に抱きしめられると――

こんなにも、安心してしまうのだろう。

「いいんだ。無理しなくて」

「……はい」

社長はそっと私を引き離し、背を向けた。

「あの……」

「どうした?」

「私たち、前もこんなふうに……親密だったのでしょうか」

一瞬、社長の表情が苦しげに歪む。

「分からないのなら、いい」

「でも……」

「いいと言ったら、いいんだ」

低い声に、体がびくりと震えた。

――怒らせた?

次の瞬間、彼はわずかに息を吐く。

「……ごめん。今日は帰りなさい」

「はい……」

その背中が、遠く感じた。
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