思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
目を開けると、朝だった。

ぼんやりと天井を見つめながら、ゆっくりと瞬きをする。

そして、頬に触れて気づいた。

――濡れている。

「……どうして」

指先に伝わる涙の感触に、戸惑う。

悲しい夢だったわけじゃない。

むしろ、あたたかかった。

それなのに、どうして涙が出るのだろう。

胸の奥に、ぽっかりと穴が空いたような感覚があった。

何か、大切なものを忘れている。

そんな気がしてならない。

「……誰か、いたのかな」

ぽつりと呟く。恋人。

そういう存在が、過去の私にいたのだろうか。

だとしたら。どうして、何も思い出せないのだろう。

こんなにも心が揺れるのに。

朝食の席で、私は母に聞いてみた。

「お母さん」

「なに?」

「私……彼氏とか、いた?」
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