思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
鋭い目つきと、威圧感のある佇まい。

この人が――会長。

「ほう」

視線がこちらに向けられる。

一瞬で見透かされるような、そんな感覚に思わず背筋が伸びた。

「コーヒーをお持ちしました」

できるだけ落ち着いた声で言いながら、テーブルにカップを置く。

「……ああ、広中だったな」

名前を呼ばれて、顔を上げる。

「俺のことは覚えているか?」

「はい、会長です」

そう答えると、会長は口元を歪めるように笑った。

「そうか」

その笑みが、どこか意味ありげに見える。

そして、次の瞬間ぽつりと言った。

「せがれのことだけ忘れているとはな」

「……え?」

思わず声が漏れる。

意味が、分からない。

せがれ――社長のこと?

どういう、意味?

一瞬、空気が凍りついたように感じた。

視線を社長へと向ける。
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