思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
けれど。

「……会長」

低い声で遮るように、社長が言った。

その声には、はっきりとした苛立ちが混じっていた。

「余計なことはお控えください」

いつもの穏やかな口調とは違う。

ぴんと張り詰めた、冷たい声音。

会長は肩をすくめるようにして笑った。

「おや、失礼したな。だが事実だろう?」

社長は何も答えない。

ただ、私から視線を外したまま、わずかに拳を握っているのが見えた。

その沈黙が、何よりも重かった。

「……あの」

私は思わず口を開く。

けれど、何を聞けばいいのか分からない。

何を知らないのかさえ、分からない。

ただ一つだけ確かなのは――何かを、隠されているということ。

それも、私に関わる何かを。

「……すみません。失礼します」

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