思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
低く抑えた声なのに、はっきりと耳に届く。

――仲が良かった?

私と、社長が?信じられないはずなのに。

なぜか、その言葉に違和感がなかった。

むしろ“そうだった気がする”と、どこかで思ってしまう。

ぎゅっと、手に持っていたファイルを抱きしめた。

紙の端が指に食い込む。

「……何も、知らないくせに」

小さく呟く。

自分に向けた言葉なのか、分からなかった。

知らないのは、私の方だ。あの人との関係も。

過ごしてきた時間も。全部、抜け落ちている。

それなのに。どうしてこんなにも、胸が痛むのだろう。

どうしてこんなにも――失った気がするのだろう。

誰かに何かを奪われたわけじゃない。

ただ、忘れてしまっただけなのに。

それが、どうしようもなく苦しい。
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